農家ならではの「野菜のおすそ分け」あるある
玄関先に無言で置かれる採れたて野菜
農家の朝は非常に早く、まだ薄暗い時間帯から畑に出て収穫作業を行うのが日課です。
その日の作業を一段落終えた後、近所の農家仲間の家へ立ち寄って野菜を置いていくことは日常茶飯事となっています。
その際、わざわざインターホンを鳴らして家の人を呼び出すことは少なく、玄関先や勝手口、あるいは軽トラックの荷台などに、収穫したばかりの野菜がそっと置かれていることがよくあります。
朝起きてドアを開けると、見慣れないスーパーのレジ袋や使い古された段ボール箱が無造作に置かれており、中には泥がたっぷりついた大根や、朝露に濡れた立派な白菜、艶やかなナスなどがぎっしり詰まっています。
誰が置いていったのかを示すメモすら入っていないことも多く、野菜の顔つきや切り口の鮮度、袋の結び方のクセなどを見れば、どこの畑の誰が持ってきてくれたのか自然と分かってしまうのが農家ならではの面白いところです。
こうして無言で交わされる野菜のやり取りは、田舎ならではの温かいコミュニケーションの形であり、お互いの生存確認や見守りのような役割も果たしています。
お返しはお互い様の精神で終わらないループ
野菜をおすそ分けしてもらった場合、そのまま何もせずにもらいっぱなしにすることは、地域の農家コミュニティにおける暗黙のルールに反します。
自分の畑で違う種類の野菜が収穫できたタイミングや、珍しい果物が手に入った時などに、今度はこちらからお返しを持っていくのが鉄則です。
しかし、相手もさらにそのお返しとして別の野菜や、手作りの漬物、自家製のお味噌などを持ってきてくれるため、ありがたいことにこのおすそ分けのループは止まりません。
時には、お互いに同じ時期にきゅうりやトマト、ズッキーニなどが大量に採れてしまい、お互いの家で全く同じ野菜を交換し合うこともあります。
夏場などはキッチンが野菜で溢れかえり、毎日どのように消費するか頭を悩ませることもありますが、これは嬉しい悩みです。
「お互い様」の精神で笑い合いながら交換し合う時間は、日々の厳しい農作業の中でのちょっとした息抜きになっています。
ご近所付き合いが希薄になりがちな現代において、こうした物々交換を通じた繋がりは非常に貴重な財産です。
規格外野菜が実は一番美味しいという事実
おすそ分けとしてご近所を回ってくる野菜の多くは、形が大きく曲がっていたり、表面に傷がついていたり、サイズが大きすぎたりして、青果市場やスーパーに出荷できない規格外のものです。
しかし、農家の間ではこの規格外野菜こそが一番美味しいという共通認識がしっかりと根付いています。
少し虫食いの跡があるのは、農薬の使用を限界まで減らして安全に育てた何よりの証拠であり、二股や三股に分かれたニンジンや大根は、厳しい土壌環境を生き抜いたために味が濃くて甘みも強いことが多いのです。
見た目が悪いからといってそのまま畑の隅に捨ててしまうのはもったいないという、作り手としての深い愛情と誇りが、このおすそ分けという文化を根底から支えています。
ご近所さんからいただいた規格外の不格好な野菜をザクザクと刻み、具沢山のお味噌汁に入れたり、コトコト煮込んで煮物にすると、野菜本来の力強い味わいと、真心を込めて育てた人の優しさを同時に噛み締めることができるのです。
